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最初に出会ったのは、千葉の九十九里浜だった。妻とであった場所でもあった。腰まであろうかという髪は、ひざを抱えて文庫本を読んでいた。彼女も思い出があったらしい。
彼女は、彼氏と呼んでいた。追いかけるには、あまりに重く長い、恋愛だったそうな。
「もう、疲れちゃった。」
彼女は、本を閉じると、海に向かって歩き出した。彼女は、子供のように、屈託のない笑顔で駆け出した。大きな麦藁帽子は、青空高くどこかへ飛んでいった。
私が、麦藁帽子を追いかけようとすると、
「いいから、こっちこっち。写真屋さんなんでしょう。」
と、海岸線ではしゃいでいた。私は、2度目のシャッターを切った。そして、3枚、4枚と。
「彼氏はねぇ、写真が下手なの。っていうか、独特なのかなぁ。アップしか撮ってくれないんだ。」
「面食いか。そりゃ、追いかけるのも大変だ。」私は笑ってしまったが、彼女も決して不美人というわけでもないのだと、選んだ言葉の後ろめたさを感じる。
「あー、ひどいんだぁ。」
と、笑って返す彼女は、もしかしたら、最初から自分の見せ方を知っている女なのかなと思わせる。
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