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もしそういうことであるのなら国としてはありがたい話。
だが一方で、それでは自分はただ面倒事を率先して引き受けただけになってしまう。
ラウドは心の中で、舌打ちをした。
「……うぷっ……」
気分悪そうに桟橋から水面に向かって顔を出して、えづいている男。
ラウドは仕方なしに背中をさすってやった。
俺は一体何をしているんだろうか?
ため息も自然と漏れ出てくる。
「悪いな兄さん。おかげで大分楽になった。……あー……で、一体どういう理屈なんだ? なんで、猫が喋ってやが……。うぷっ……。よーし、わかった。ひとまず落ち着こう。焦るな……。とりあえず目の前の出来事を一旦整理してみ……オボェロロロロロロロロ……」
「こやつダメだな」
「ああ……」
なかなかどうして、こうなるのだろうか。
軍人の彼女は、一緒に旅をしてきた彼女とはまた違った一面。
それ自体はもちろん尊敬も尊重もしているが、寂しがり屋な自分としてはときどき疎外感を覚えてしまうこともある……。
それは我が儘で傲慢な感情だが、もし少しでもそこに関われたのなら……。
だからこそ、その軍人の部分の手伝いもしたいというのに。
それなのに目の前のこの状況。嘔吐している男の介抱なんて……。こんなはずじゃなかった。
気を抜いているいると、容赦なくどんどんため息が出てくる。
「いいか。良く聞け、ゲロまみれ。我が名はエンシェントルーパス! 誇り高き古の狼王! 精霊だ!」
「エンシェ……?」
「エンシェントルーパス!」
「ああ、なるほど。了解だ。いや、なにぶん今、目と耳と頭の調子が悪いみたいでな。何度も名乗らせちまってすまねえな、エンシェント……」
しかし男は一拍間を置き、壊れたラジオみたいにプツンと声が止まる。
後、
「まあ、そのなんだ。すまねえな」
「貴様、全て右から左だな! もはや覚える気がないだろ! 失礼なやつめ!」
「そんなことはねえよ、ちゃんと覚えたさ。……ところで兄ちゃん。このエンシェント……エンシェントトマト猫はなんで人間の言葉が喋れるんだ? やっぱり俺の頭がイカれちまってるんだよな? 頼むからそうだと言ってくれ」
「貴様っ……! ……ええい、もう許せぬ。おい、ラウド! 封印を解けっ!」
「いや、解かねえよ……」
一体なんなんだコイツ──……。
(つづかない)
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