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「え? あ……母さん」
母さんが病室に帰ってきて涙が止まらない顔を母さんに向けてしまった。慌てて涙を拭うが一向に止まる気配もない。
それでも……俺は心の底から笑って見せた。
「大丈夫だよ」
「いやでも……痛むの? 苦しいの? ナースコールする?」
「本当に大丈夫だから」
壁にぶら下がっているナースコールボタンに手をかける母さんを止めながら、俺は笑顔を続けた。
俺はあの世界での経験は俺の中だけでとどめておこうと思っていた。それは俺だけの物語だから。
でも……俺の物語はやっぱり母さんがいなければ本当の一歩は進まない。俺の物語は俺が主人公で母さんが登場人物のひとり。
それはサナ、ガオウ、ミウナキも同じ。サナ、ガオウ、ミウナキがいたからあの世界で俺だけの物語が進んだように。
母さんだけの物語も同じなのだ。俺が母さんの物語の登場人物にならなければ、母さんだけの物語が進むことはない。
本当はそこに親父も登場してほしい。けど、どうしてもできないから、せめて俺だけでも母さんの物語に入らなくちゃいけないと思う。登場人物が主人公だけだと物語は進まないから。
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