第1章 自分だけの物語

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第1章 自分だけの物語

『母さん、友達の家行ってくるね。悠斗(ゆうと)』  俺はメモ帳に母さん宛の要件と俺の名前を書き机の上に置いた。正直、このメモが読まれることはないだろう。なぜなら、遊び終わって家に帰るころでもまだ母さんは帰っていないはずだから。でも、なんとなく、やっぱり書きたくて俺は自分の行き先を書き記す。いつものこと。  靴を履いて玄関のドアを開けると、勢いよく飛びだす。 飛びだしてから鍵を閉めたかどうか気になって顔を玄関のほうに顔を向ける。そのとき、ふと壁にかかっている表札が視界に入った。 【八尾神(やおがみ)】  俺の苗字だ。そして嫌いな苗字。この字を見るだけで嫌になってくる。一度母さんに旧名に変えないかと提案したが思いっきり怒られた過去もある。ただ、とにかく嫌いだ。 「ふん……くそったれ」  足で一度表札に蹴りを入れるとドアノブを触り、鍵をかけていたことを確認すると友達の家に向かって走りだした。  俺は中学二年生に上がったばかり、これから一年のとき同じクラスだった親友の家に行くところ。だが、その途中目の前に五歳にも満たなそうな幼女が視界に映った。道端で何かを叫びながらひたすら泣いている。     
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