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「わかった。わかった。なあ、でも悠斗、これはな、お前だけの物語だ。
お前の中ではお前が主人公だ。
お前の中にある物語は親のものでも友人のものでもない。自分だけの物語だ。
だから自分が自分自身で選べ。自分の物語を。
だから……俺がいなくても関係ない、俺がいなくてもいい、自分がいればいればいいんだ、自分で作れ、自分だけの物語をな。母さんと一緒に」
「ああ? なんだよそれ!?」
「俺がいなくてもお前の物語は続くってことだ。母さんには母さんの物語があって、俺には俺の物語がある。
残念ながら、お前の物語に俺は直接登場しないかもしれない。でも、母さんの物語にはお前が登場して、お前の物語には母さんが登場する。
だから、俺がいない分もお前と母さんでそれぞれの物語を作れ。それが家族だ」
思いだした……思いだした。
あれはこの世界で親父と顔を合わせた最後の日……。二度と帰ってこなかった親父の最後の出勤日。俺と親父が最後に交わした言葉。
俺はあいつが憎くて、あいつのことをできるかぎり忘れたくて……ほとんどなかった思い出も顔も……記憶から消し去った。でも……残っていたんだ……、俺の中で……親父が。親父が俺に残してくれた……言葉が。
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