第10章 俺だけの物語

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 俺の中にあった最後の栓が弾けとんだ。  奥に溜まっていた感情という海がすべて解き放たれ、俺の心を満たしていく。それはとめどもない涙となって外へ溢れ落ちる。俺が怒りに任せて破り、床に落ちたのを踏みつけたときにできた足跡に水滴が吸い込まれていく。  もう、この感情ははっきりとわかる。涙の意味は……はっきりとわかる。  俺はあいつの子供だ。そして……親父に会いたい。親父と話をしたい。親父に会えなくて寂しい、悲しい、辛い、でもあの世界で生きていたと知ったとき、俺は嬉しかったんだ。そして会いたいという気持ちが炸裂した。  会いたかった。そして……最後に会えた。  ジンと接触したときに流れ込んできたあれは、親父の想いだったんだ。親父が……俺や母さんを想っていたから、俺に懐かしい感情が流れてきたんだ。  この感情、この事実、もっと早く気付いていたら。あのとき、気付いていたら……もっと、俺も……親父に対して素直になれたのに。もっと……親父と話していたかった。  チクショウ……もう……遅いんだよなぁ……俺も……あんたも……。 「悠斗、美味しそうなプリン、買ってきたよ。クリームたっぷり……って、どうしたの?」     
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