壁越しのふたり

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白色の壁紙は斑に汚れ、薄い層を作っている。私は煙草を吸わないから、前の住人の名残だろう。 それに線を引くように人差し指をつぅと這わせて五本の指を折り畳む。 トントントン まるで気軽な挨拶のように。単調なリズムが一人きりの部屋に響く。 トントントン 少しの間を置いて、同じリズムが返ってきた。 一音一音はっきりと、聞かせる為の声を腹から出す。 「…怪我、してない?」 トン 「今日はおかあさん、いつ帰ってくるんだろうね」 トントン 一つ目は「うん」、二つ目は「分からない」。 「今日、寒くない?」 トン 「もう11月も終わるんだから仕方ないよね。…今が何月か知ってた?」 トントン 日が沈んでまた昇るまで。晴れても曇っても嵐でも。彼はいつでも、いつだってそこにいる。 外を知らないのだろう。日付の感覚がなくても不思議ではない。 「私今日は出掛けないの。もう少し話してても良い?」 トン 「寒い」 「知らない」 「いいよ」 繰り返される一つか二つの音が、私の言葉に意味を返す。
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