壁越しのふたり

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※ 住み心地は悪い。満室になる事などなさそうな安アパートは、住人の入れ替わりが激しくなかった。 久々に収まった隣人は、生活音が煩いくらい。その程度の印象だった。 皿の割れる音がした。 それも一枚ではない、複数のそれらが一度に割れる尖った音。時計を見れば22時を回っている。肩を跳ね上げた私は思わず壁に耳を寄せた。 「この役立たず!」 「そうやって馬鹿にしてるんだろ?!」 甲高い女の声が電流のように鼓膜に流れ込む。 一方的な罵りが続き、乱暴に開かれた扉と階段を下りていくヒールの音が続いた。 壁越しからは何の音も生まれない。途端に静けさが隣室に落ちる。 膝からは力が抜けて、冷たい床に座り込んでいた。私は叱られた子供のように震えている。 ギリギリと痛む鳩尾を押さえて振り返った先には誰もいない。もう終わったはずなのに、きっかけさえあれば容易く蘇るそれが忌々しくて恐ろしかった。
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