壁越しのふたり

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隣室の扉を叩いて訴える。そんなことは出来ない。だからと言って無視することも出来ない。どっちつかずの私はただ壁に耳を寄せる。 カレンダーを一枚捲る頃だっただろうか。 「触るんじゃないよ!」 怒鳴り声と同時に重みのある音が耳朶に響く。それは明らかに壁に人間がぶつかる音だった。 声は止み、玄関扉の閉まる音と足音が遠退いていく。 私は全てを聞き終えてから、強張りの残る手を握り締めて壁に当てる。 …トントントン 「ねえ、今そこにいる?」 トン どうやら意識はあるようだ。ほっとした私は続けて言葉を掛ける。はっきりと、聞き取れるようゆっくりと。 「怪我してない?大丈夫?」 トン 声は届いたようだ。今ばかりは薄い壁で良かったと息を吐く。音しか返ってこないが、これはイエスと取って良いのだろう。 「…そっち行こうか?」 トントン 初めて続いた二つの音。 ノー。 来ないで。 それは確かな拒絶の意思だった。
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