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「新名さん、それ終わったら上がって良いよ」
中腰の体勢でペットボトル飲料を補充する私に掛けられる声はいつも通り穏やかなもの。しかし内容は予想外だった。
「…え?今日は3時までのシフトでしたよね」
「新名さん、ここの所働き過ぎだよ。こっちとしては本当に助かるんだけど…」
言いながら店長は意味もなく笑う。
50を過ぎた白髪混じりの男性は、私が出会った人の中できっと最も善良で、優しい人だった。
「ほら、新名さんは勤務時間も固定してないし皆が希望休の時もずっと働いてただろう?大晦日くらい家でゆっくり過ごして欲しいんだよ。心配しなくても年が明けたらまた沢山シフトを入れさせて貰うから」
良いお年をと半ば無理矢理背中を押されて私のタイムカードは23:15を打刻する。
人気のない静かな夜を歩きながら、寄る場所もない私はアパートに向けて足を動かす。
大晦日は一年の最後の特別な日。それは一人になって初めて知った。だからと言って特にやることはないけれど、優しい人の気遣いを無駄にするのは嫌だった。
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