仕事

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
私の役目を分かりやすく説明するために、Aさんの「足跡」を使って説明していきたいと思います。 Aさんが誕生すると、一冊の本が「誕生室」に現れます。その本こそが「足跡」です。 「足跡」は、その人の生きた人生の長さによって本の厚さが変わるので、一目で本人の享年を知ることができます。 「足跡」はAの名前が決まると、「人生室」の中にある、国別、五十音順やアルファベット順に並べられている本棚に移す必要があります。その「足跡」を移す作業を私がやっております。 いやぁ、毎日たくさんの人が生まれているので、私もあっち行ったり、こっち行ったりと忙しいくてしょうがない。 えぇっと、その後、「足跡」のページにどんどん書き込まれていくんですよ。Aさんの行動が。 例えば、○○を食べた、誰々と話した、笑った、泣いた、怒った……。などなど、Aさんの行いすべてが次々と書き込まれ、「足跡」は常にリアルタイムで更新されていきます。 そして、Aさんがお亡くなりになられた時、Aさんの「足跡」は……、どうなると思います? 燃えるって?違いますよ。答えは、「足跡」が光るのです! どの光源よりもまぶしく、明るく光って私にAさんが亡くなったことを知らせてくれます。 そして、私はAさんの「足跡」を「保管庫」に移します。 保管庫の中には、亡くなられた方々の「足跡」がしまわれています。 Aさんが地上の人々に忘れられていくにつれ、「足跡」はだんだんと薄く、影のようになっていって、完全に忘れられてしまうと「足跡」も完全に消えてしまいます。 その空いたスペースに私が別の「足跡」を持ってくる。 私は、「足跡」が消えてしまわないようにとか、逆に消そうとして細工を施すこともできません。ただ見ているだけなのです。 同様に、人の「足跡」の内容を書き換えたりはできないので、私の仕事は、「足跡」を運び移すことと、人の「足跡」を読んで、その「足跡」が消えてゆくのを見ていることですかね。 私の役目については説明し終えましたので、皆さんお待ちかねの「なぜ、私がこんなことを話しているのか」について、順を追って説明しましょう……。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!