25人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「それでも、私は信じられません……」
時花はしかし、認めたくなかった。
大好きなこの店が、憩いの場が、不正に染められていたとは考えたくない。
三年前のことなんて知る由もないから、なおさら現実味がない。
時花にとって、ここは聖域なのだ。
「矢陰光さんも、悪い人じゃないと私は思いますっ」
「何を根拠に……」
「だって、店長が一度は愛した女性でしょう?」
「!」
「店長ほどの人が好きになった女性が、悪さをするわけないじゃないですか……だから私は、むしろ贋作を判定したという銀座の鑑定士がおかしいと思いますよっ?」
鑑定士。
そうだ。疑うべきはその人をおいて他にない。
そいつこそが、パテック・フィリップを『贋作』だと難癖を付けた張本人なのだから。
ヒモ大学生の質入れを拒否し、突き返した元凶――。
「本気ですか、時花さん?」
「もちろんですっ! ヒモ大学生と共謀してイチャモンを付けた線も否定できません!」
時花はここぞとばかりにまくし立てた。
こちらに非がないと仮定すれば、悪いのはあちら……原告側しかない。
「ヒモ大学生は『時ほぐし』で化けの皮を剥がされ、当店を逆恨みしてたんです。だから鑑定士にわざと偽物の鑑定をさせて、それをネタにうちを潰そうとしてるのかも!」
最初のコメントを投稿しよう!