0人が本棚に入れています
本棚に追加
コウツウジコ。一瞬理解できなかったが、次の瞬間、後頭部に何か重いものがぶち当てられたように、くらくらした。「意識が戻らない」って、それは要するにどういうことなんだ。ドラマでしか聞かない表現から、「死」という言葉が頭をちらついた。
兄は仕事帰りの運転中に事故に遭った。高齢者のこぐ自転車がふらついて車道へはみ出してきたのを避けようとして、対向車線のトラックと衝突したらしい。トラック運転手が救急車を呼び、すぐに搬送されたが、頭を打ったらしく、意識が戻らないようだった。
兄の容体や経緯を話す母の声には、泣き疲れた色があった。父がついていたようだが、不安な気持ちで僕に電話をかけ続けたのだろう。疲れても、やはり涙はとめどなく溢れていることが、電話越しにもわかった。
僕はその日のうちに荷物をまとめ、念のため上司に事情を説明する簡易なメールを送り、翌朝の新幹線で実家のある岡山に帰った。しかし、新幹線の中で、兄の訃報を聞くことになった。最初の知らせから死んでしまうまで、あまりにあっけなかった。
病院に直行すると、兄は眠っているかのような表情で、そこに死んでいた。想像していたより、顔色だって良かった。胸元にガーゼが貼られている以外は、至って普通の姿で横になっていた。僕は、そんな兄の顔を見ても、どうしてもピンとこなかった。
兄の葬式が済むまで、実家で過ごすことになった。当然、黒いスーツなんて、持ってきていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!