C球

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 買い物を済ませ、少し遠回りしながら帰り道を歩いていると、公園に出た。昔よく友達と遊んだ公園だった。懐かしさがこみ上げたが、見覚えのある風景とどこか違う。何か、視界が狭いのだ。よく見ると公園の奥の空き地だったところに、高級そうな住宅群が建っていた。 「そりゃそうだ。当然、あの頃からは変わっているよな」  公園を取り囲む街が存在感を増した一方で、公園の中は閑散としていた。日が暮れる前ではあったが、遊んでいる子供もいないし、遊具も撤去されているのだった。  時間は、通り過ぎていく。地方から順に少子化は進むし、危険な遊具は撤去されるのだ。地元の友達の多くはもうここにはいないし、一緒に遊んだ遊具もなくなっている。冴えないスカスカな茂みがあったところには、代わりに色とりどりの小さな花が植えられている。  ひんやりとした夕方の空気と、弱まりつつある日差しと、土の匂い。目眩がするような懐かしさに襲われ、突然幼少期の記憶が蘇ってきた。ブランコから跳ぼうとして、着地を失敗して大泣きした記憶。缶蹴りの時に茂みに隠れて息をひそめた記憶。見えるものは変わっても、肌に、鼻腔に触れる世界はそのままだった。  唯一残っていた滑り台に近づくと、薄汚れた野球ボールが落ちていた。ボールがあると、ついいじってしまう癖が野球経験者なら誰にでもある。買い物袋をそばに置いてボールを拾ってみると、軟式のC球。野球ボールを手に持つの自体、何年振りかわからない。こんなに軽かったっけとびっくりしながら、いつも壁当てしていた壁の方へ近づき、投げてみる。  ボン。トン、トン、トン。  ゴムのボールが壁に当たって、地面に跳ねて、僕しかいない公園に鳴り響く音。何かが頭をかすめて、はっとした。長い間思い出すこともなかった、二十年前の記憶だった。
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