C球

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 覚えているのは、夕方の公園と、真っ白な、買ったばかりの軟式の野球ボール。  僕が所属していた少年野球チームでは、四年生に上がる時に、Tボールと呼ばれる柔らかいボールから、軟式ボールを使った野球に移ることになっていた。小学四年生になったばかりの四月のある日、僕は、前日に買っていた真新しいボールを持って、五時間目が終わってからすぐさまこの公園に壁当てしに来たのだった。ナガセケンコーボールのC球。大手スポーツ用品店のオリジナルブランドよりちょっと高い、公式球。  僕は同じ少年野球チームに在籍していた上級生たちに憧れていたから、早く彼らと同じ軟式ボールを使って野球をしてみたいと思っていた。チームでも上手い方ではなかった兄くらいなら、すぐに追いつけるはずだと思った。たくさん練習しないと。学校から帰り、公園へ向かう道は自然と早足になった。  公園に着くと、大事な軟式デビューだから、いつもより丁寧にミズノのグローブをはめる。いつもはやることのないストレッチをしてみる。壁に向かい、大げさなワインドアップで投げる。誇らしさとワクワクを込めて、指先から放す。  ボン。トン、トン、トン。やっぱり、Tボールより跳ねるんだ。何回かエラーして、ようやく跳ね方を覚えてくる。ゴロを捕っては、コーチが教えてくれたように、右手でグローブに蓋をする。ボールの表面に慣れない小さな凹凸を感じながら、グローブの中で握り直す。壁の模様を狙って、また投げる。ボン。トン、トン、トン。新品のボールから、白い粉が落ちていく。少しずつ土の色がつく。軟式のC球が、僕のものになる。
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