C球

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 独りでの壁当てだったが、僕にとって、上々のデビューだった。そこへ、聞き覚えのある、同い年くらいの少年たちの話し声が聞こえてきた。ふと、元いた世界に戻る。いつもつるんでいた拓也と晃平が自転車でやってきたのだった。拓也が叫ぶ。 「おーい、祐士。ちょうどいいわ、今からドロケイしようや。もうすぐ他の奴らもくるけん」 「うーん」   はっきりしない返事になった。普段はこの公園で一緒にドロケイをして遊ぶのだが、その日は壁当てをもっとやりたかった。ただ、彼らが公園でドロケイをしている真横で壁当てを続けるわけにもいかなかった。仕方なくボールをグローブに大切に包んで、自分の自転車のカゴに入れた。  しかし、待ち合わせをしていた別の友人たちはなかなか現れなかった。まだ高い位置にある太陽は、手持ち無沙汰な僕たちを照らす。晃平と僕が新しいクラスや担任の教師についてアタリだのハズレだのと話していると、しびれを切らした拓也は僕のグラブを開いてボールを取り出していた。ちょっと、と声を出しかけたが、そこから先は押しとどめた。拓也は僕らの仲間内で中心だった。 「このボール、いつもと違うやつだな」 「そうだよ。四年生からは軟式を使うから」  やはり不穏な流れを感じて、ベンチから腰をあげる僕をよそに、へー、と言いながら拓也は壁に投げる。 「めっちゃ跳ねるんじゃなあ、これ」 「俺にもやらして」  晃平もこちらをチラと見てから、ぐるんぐるんと肩を回して、拓也からボールを受け取る。 「先に落とした方が負けな」  二人は、素手で交互に壁当てを始めた。ますます嫌な予感がして、さすがに僕は止めに入った。 「新品だから、あんまり使わんでよ」 「ちょっとくらい汚した方が味が出るんじゃ」  そう言われると、これ以上は強く言えなかった。もやもやした気持ちを抱えたまま僕は後ろで見守る。
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