C球

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 ボン。トン、トン。ボン。トン、トン。  サッカークラブに入っている二人は、何のスポーツも卒なくこなすらしく、テンポよく捕って投げてを繰り返す。新品の白い粉は、ほとんど落ちきっていた。土の色がつく。慣れてきた二人は、相手を負かすために、捕りづらいボールを放り始めた。  早く勝負かつくか、二人のどちらかが飽きてくれないかな。後ろでやきもきしていると、次の瞬間だった。晃平が横から角度をつけて投げたボールに追いつこうと拓也が足を出した。サッカーボールより遥かに小さい軟式のC球は、壁を大きく超えて、その向こうの空き地へ飛び込んだ。 「いってー!」 「そりゃ蹴ったら痛えよ」  拓也が足を押さえて座り込み、晃平が笑い転げている。僕は泣きたい気持ちでもう一度空き地の草むらに目をやったが、伸びかけの草は風に揺れているだけで、ボールの場所はもうちっともわからなかった。それまで顔色を伺っていた僕も、思わずカッとなって声をあげた。 「ねえ。ボールを見つけてよ」  僕は彼らに言った。拓也がこっちを見た。大げさに痛がっていたはずが、ほとんど真顔になっていた。 「こっちが痛がってんのに、お前はボールの心配かよ。最低じゃな」  拓也の思わぬ反撃に僕は怯んだ。笑っていた晃平は、拓也の語気の強さに気づいて、慌てて拓也に声をかける。 「どこに当たったんじゃ。他の奴らも来んし、ドロケイは無理そうじゃな。今日は帰ろうや」  僕は許せない気持ちと、それなのに二人に強く言えない情けない自分との狭間で立ちすくむしかなかった。晃平は拓也を支えながら自転車の方へ拓也を連れて行く。僕は再び強くは出られなかったが、拓也に対し「ごめん」と言うこともできなかった。そしてそのまま二人は自転車を押して帰ってしまった。
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