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やってしまった。明日学校で何と噂されるだろうか。拓也の仕返しが怖かった。僕も帰りたくなった。が、一瞬忘れかけていたボールのことを思い出した。
「探さないと」
声に出すと、さっきまでの快調な軟式デビューとの落差が現実味を持って感じられ、ますます打ちのめされる思いになった。空はオレンジ色に染まりつつあり、肌寒い風が吹き始めていた。僕は鬱蒼と草を生やす空き地に入り、包丁葉っぱをかき分けてボールを探した。どの辺に落ちたのだろう。拓也の反応に気を取られ、ちゃんと場所を見ていなかった。
「野球ボールなのに蹴ったりするからだ、馬鹿野郎」
小さく呟く。半ズボンだったから、草むらを歩いているうちに足がヒリヒリした。葉っぱで切れているのかもしれなかった。いろんな気持ちがごちゃ混ぜだったが、とにかく悲しかった。
後から振り返ると、買ったばかりのボール、軟式野球への憧れ、少年野球で教わる道具への敬意、そういう自分の大切にしているものを軽んじられたことへの悲しさや怒りだったのだろう。そんな怒りにも関わらず、翌日拓也たちの顔を見ることに未だに怯えている自分が悔しく、情けなかった。
僕は泣きそうになりながら探し続けたが、ボールは一向に見つからなかった。途方に暮れ、遠くの公園の時計に目をやると、もう五時半過ぎだった。気づけば暗くなっていて、公園の照明が点灯しているのが見えた。寒かった。息で温めようと手を口元に持っていくと、手の甲が切れていた。傷を見て、そこで痛みに気づいた。ついに涙が出てきた。僕はしゃがみこんで、一人で声を殺して泣いた。惨めだった。五分ほど泣くと涙が止んで、そこからしばらく僕は探し続けるか帰るか、ぼんやり考えながら座っていた。
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