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母が入院してからずっと家事をこなしてきた。
ふたつ年下の妹は生意気で……家事分担さえ受けてくれない。
家事というのは学校より大変だと沙苗は思う。
頑張っても頑張っても、誰も何も褒めない。褒めてくれない。
料理はレシピを片手につくり、洗濯物は夜のうちに干してしまう。
「早苗の指って汚い」
先日、付き合って二年になる彼氏にそういわれてフラれた。
実際に水による手荒れは、ハンドクリームでは役に立たなくて……いろいろケアをしていてもあかぎれが出てしまう。
父はとても弱い。
現実から目を背けるように、母が病気だと認めないように、無心に仕事をして家の中のことまで気に掛ける余裕はないように見えた。
『新しい人生は素晴らしい』
ふと先ほどのチラシが目に入る。
もし今、新たな人生が手に入ったらどうなるのだろうか。
早苗はその紙切れに、吸い寄せられるようにじっと見つめた。
本当は助けて欲しかった。
この現状から抜け出したかった。
こんな人生を望んで生きてきたわけじゃない。
そんな悲しみが胸を苦しめていく。
もしーー楽になるのなら。
そんな考えは思春期であればだれでも考えることだろう。
必死に握りしめたチラシに、早苗の涙がいくつも落ちた。
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