1/3
前へ
/18ページ
次へ

 まだ召し使いですら寝静まっている早朝に、そっと部屋を抜け出した。バレたら色々と面倒ではあったが、城外に出るわけではないのだから、言い訳なんて何とでもなると思い、気にしなかった。  春も半ばが過ぎて、夏に移り変わっていく季節とはいえ、朝の空気はまだ肌寒い。簡単な部屋着に上着を纏っただけの、王族の姫としてはらしからぬ格好ではあるが、見てくれよりも今は機能性重視である。長い髪は庭園を突っ切るのに邪魔なので、頭の後ろで一つに結い上げる。 (もしかしたら、こんな朝早くには来ないのかもしれないけれど……)  それでも何故か気持ちが逸り、大人しく待っていることができなかったのだ。  色とりどりの花達が咲き誇り、形よく切り揃えられた木々たちの間を、するりと抜けていく。そうして目の前に見えてきたのは、高々とした黒い鉄格子で閉ざされた城門だった。 (勢い余って来てみたものの、このあとはどうすればいいか、考えていなかったわね)  できれば誰にも知られたくはないので、誰かに訊ねる訳にもいかなかった。 (仕方がない……)     
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加