第一章

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 これは自称『生き神』が消滅した数日後のお話―――。 ☆  俺(八岐大蛇の息子の蛇神)は冷蔵庫を覗き込み、食材とにらめっこしていた。  ううむ……。  どうしたものか、非常に悩む。これは重大な問題だ。  そこへ東子の両親、先子と東治が通りがかった。 「あら、九郎ちゃん。夕飯のメニュー考え中?」  ちゃん付けで俺を呼ぶ彼女は、さすが東子の母というべきか肝の据わった女性である。  現在神主は名義上婿養子の夫だが、実権を握っているのは彼女だ。俺が封印されてる間、特にこの数十年は加賀地家への差別がひどく、それでも堂々と生きてきた彼女はやはり強い。  封印されてるのは本当に邪神かと疑っていたこともあり、最初からおおむね好意的に俺を受け入れてくれた。感覚が大昔な俺が押しかけて娘を嫁にする宣言しても、「いいわよ~」と親指立ててOKしてくれるんだから、考えてみればすごい。  見かけは普通の優しい母親なのだが、中身は非常に強い。  夫の東治は穏やかな中年男性で、中身も外見と同じ。平和主義で穏健派、妻の尻に大人しく敷かれている。 「ああ。最近夜寒い日もあるし。何かあったかいものにでもしようと」 「確かに。冬も近いかな」 「そうねぇ。九郎ちゃんのごはん、いつもおいしいからうれしいわ~」  稼業が縁結び神社にチェンジして参拝客が急増したことで二人も忙しくなった。もちろん配下に手伝わせてはいるが、普通の会社員の東治は辞めて神主の仕事に専念しようかと考えてるらしい。  冷蔵庫の扉を閉め、のんびりした義両親に聞く。 「今さらだが、俺がここにいることをよくあっさり受け入れるものだな」 「あら?」  二人はおっとり首をかしげた。 「祀り神を追い出す神主っていないと思うよ」 「そうではなく、邪神と言われた俺が娘を嫁にすると宣言して、監視人としては困っただろうに」 「そうねぇ、でも私は昔からその伝承に疑問を持ってたし、自分が監視人だと思ったこともないわ。ただのさびれた神社の守り手、くらいかしらね。歴史が時の権力者の都合のいいように作られるように、言い伝えも同じようにされた可能性がある。事実そうだったでしょう? 貴方が本当に東子を好きなのは分かったし、ならいいんじゃないかしら~って思ったの。ねえ、東治さん?」 「そうだね」 「それに―――貴方は神様だから気づいてると思うけど、うちの先祖は人間じゃない人(?)も多くて」
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