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「一度フラれた姉さんより、理想に一致した女児見つけ、自分の望む通りに育てようと考えたんだろう。子供なら理想の女性に作り上げられるというわけだな。さらに変態性が増したなぁ。……そこへ見つけたのが、姉さんの面影を持つ東子だった」
先子が腑に落ちた、と唇をかみしめる。
俺は腕を組んで壁にもたれかかった。
「推測だが、東子を幼少時に誘拐したのは奴の手先ではないか? それ以降何もなかったのは、スサノオが駆けつけて阻止したことで東子にはスサノオの加護があると判明したから。さすがにあいつを敵に回す危険は避けたとみえる。諦めたかもしれないな。だが東子も成長し、俺が嫁にしたことで再び憎しみが勝った。俺から東子を奪えば復讐ができると、ああして子孫を動かしたんだろう」
「なるほどね……。危うくとんでもないことになるとこだった。だけど幸いにもあれはもういない。これで東子は安全かな?」
俺は正直に答えた。
「分からない。どうも、東子が狙われたのはそれだけじゃないフシがある。今専門家に問い合わせてるとこだ」
「そう。下手にごまかさず答えてくれるとこが、貴方はいい子だと思うわよ」
「子って年齢じゃないんだが……」
俺のほうが遙かに年上だ。
先子は笑って俺の髪をわしゃわしゃかきまぜた。
「貴方は私の息子みたいなものよ。九郎ちゃん」
「そうだねえ、僕は息子もほしかったからうれしいよ」
「…………」
実母は俺に名すらつけてくれなかった。優しい言葉をかけてもらったことなどない。
撫でてくれることも、優しく抱きしめてくれることもなかった。
俺は実父に捨てられ、実母に殺されかけ、異母姉と義父からも疎まれ、家族というものを知らない。
東子が名をつけてくれて加賀地家が迎えてくれなかったら、永遠に一人のままだった。
……あたたかい。
俺は自然と微笑んでいた。
「九郎―。あ、ここにいたの」
愛しい東子がひょっこり顔をのぞかせる。
「東子。どうした?」
「お腹すいちゃった。おやつ食べたい。あと、晩御飯何?」
「それを考えてて。そうだ、義母君、この家の母の味はどんなものなんだ? 教えてほしい」
「あら、九郎ちゃんマスターする? いいわよ。東子は料理下手でねぇ。九郎ちゃんが覚えてくれるなら助かるわ~」
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