40人が本棚に入れています
本棚に追加
「漢字が読めないの? それは『欺罔』ね。ずいぶん古い本だから仕方ないか」
「あのう、……すいません」
こんなにいい天気なのに、こんな駅ビルの屋上の掘立て小屋に押し込められている僕のこの状況は、なんともナンセンスだとしか言いようがない。
しかも僕の隣には、つい1年ちょっと前まで女子高生だった女の子が警察官の制服を着て、読めない漢字に引っかかりながら一生懸命テキストを読み上げている。
まさか、こんな冴えない新任警察官の指導員をやらされることになろうとは。
「いいよ? 凜ちゃん、慌てなくていいから」
「ほんと……すいません、高取部長」
「まぁ、僕らの仕事はただ空飛ぶだけじゃダメなんだから、法律、ちゃんと分かるようになろうね?」
「はいっ。その、あああ……ありがとうございまちゅ」
「噛んでるよ? 大丈夫?」
デスクの上に広げているのは「刑法」のテキスト。
この警察学校を出てきたばかりの19歳の女の子を、2か月以内に単独飛行警らに出せというのが、この掘立て小屋のトップである特別機動警ら班第一方面班長からのお達し。特例の教育係だなんて言われて、いいように使われている。
しかし、彼女は僕以上に特例だ。
最初のコメントを投稿しよう!