いとし年越し3

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いとし年越し3

「実はちょっと気付いてたんだよなあ」 「え?」 「一瞬さ、時計見えたんだよ。んで、あ、このままいくと日付変わるかもな、と」 「ああ……」 「だからって、そこで止められたら俺人間じゃないよな」  ちょうどいく(、、)とこだったし、とか、言わなくてもいいのに。と思いながら、それを受け入れた身体を布団の中で転がす。新しいスウェットを出してもらったのだが、この暑くて心地よい布団から出るのが嫌で、ぐずぐずしている。  始めた時間が少し遅かったのと、していた時間が少し長かったせいで、間に合わなかった。  何がって、年越し蕎麦が。  十二時時数分前から茹で始めた蕎麦が茹で上がったのが、十二時数分後。  キッチンから、だしと醤油のいい匂いが漂ってくる。 「できた。中村くん出てこーい」 「うん……」  勇気を振り絞って布団から出て、服を着る。  ねぎとかまぼこが添えられたシンプルな月見蕎麦が、テーブルの上で湯気を上げている。夜食なんて入るだろうかと思っていたのだが、かすかに空腹さえ感じている。理由は、まあ、口にしたら乾がにやつく種類のこと。  慧斗が向かいに座るのを待って、乾が背筋を伸ばす。ので、つられて背筋が伸びる。     
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