第四章

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「ふざけるな!」  上弦さんは怒り狂って立ち上がろうとして……なぜかその首にはすでに輪っかがはめられていた。 「え?!」  あたしには視えた。九郎の背中に蛇の体が戻ってくのを。  一瞬でくわえ、付けたな。  蛇の口でどうやってベルト締めたんだろう。素朴な疑問。舌? 「黙って付けてろ」 「蛇神様!」 「まったく分かってないようだが、お前はそれほどのことをしたってことだ。きちんとその罪は償わねばならん。賠償金は立て替えておいてやるから、そのぶん働け」 「そ、そんな」 「うるさいからちょっと外出てろ」  にゅっと再び飛び出した蛇の頭が上弦さんをくわえ、放り出した。 「誰にもからむなよ。ケンカも売るな。そこらへんで大人しく待ってろ」  ピシャン。扉を閉める。  あららら。 「ずいぶん冷たい対応ね。珍しい」 「あれくらいやらないとあいつは自覚しない。悪いことをしたら悪いと、きちんと理解させないと。それもしつけだ」 「根本的には悪い人じゃないと思うけどねー……」 「……東子、やっぱ上弦のこと好きなのか?」  九郎の声が低くなった。  おいおい。あからさまに不機嫌な蛇頭が八つ、シャーシャー言って巻きついてくるな。 「いいかげんにしなさい。違うって言ってんでしょ」 「だってえぇ」 「蛇神は概して性質上独占欲が強いとはいえ、大変だな加賀地さん。どう見ても惨殺一歩手前の構図だぞ」 「ですよね。ほら、蛇の姿ひっこめなさい。あんただって上弦さんが根は悪いやつじゃないって分かってるから本気で排除はしないんでしょ」  もしそうならとうの昔に追い払ってたはずだ。九郎はマジでやれば自称『生き神』を瞬殺・雲散霧消できる実力の持ち主。それが口で少し厳しいこと言うだけなんだから。 「たぶんさ、上弦さんて真面目すぎるんだね。それから思い込んだら一直線。あんたを美化しすぎて信じすぎ、他のことに全然目がいかないんじゃない? 視野がこう……狭まってるというか」  両手をそろえてスライドさせる。 「命の恩人に恩返ししなきゃ、役に立たなきゃって焦りすぎた結果が、他の人は邪魔→排他的になっちゃったのね」 「……まぁそうだけど。上弦なんか気にしなくていいよ。東子は俺だけ見てればいいのー」  やめろっつったのに断固として巻きついたままの蛇神様。こいつも大概だ。  同感と言いたげに比良坂さんが嘆息した。
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