第一章

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 あたしも最初見た時「逆じゃなくて?!」ってツッコんだわ。 「あのね、愛情も物理的にも重い。動けないっ」  ぐぬぬぬぬ。足が一歩も進まない。  えーい。 「もう、仕方ない。九郎、ちっさい蛇の姿になんなさい。入れたげるから」  コートの首元を広げる。  したら四人とも仰天してた。 「九郎様っ、聞きました?! 聞き間違えじゃないですよ!」 「これチャンスですよ!」 「わ、分かってる。東子、マジでいいの?」 「? だって海苔巻き嫌なんでしょ。でも寒い寒い言うから、歩けないし、コートの中入りなさいって言ってんの。そうすればあたしも足自由になる」 「ああ、そういう理由……東子ってけっこう無自覚だよな……。でもいいや、東子大好きーっ!」  ぴょーんと蛇が飛び込んできた。くるりと方向転換し、頭を出す。 「あ~、幸せ~。ほわ~、あったかい……天国……」 「よかったですね、九郎様……っ」  なんで感涙にむせんでんの?  九郎もすごくうれしそうにへにゃへにゃしてる。神の威厳はどこにもない。  いくらなんでもみっともないんじゃ……。 「―――嘆かわしい」  ふいに地の底から這い出るような声がした。  ん?  誰? あたしじゃないよ。  見回すと、電柱の影に大きな黒犬がいた。  いや、犬っぽい妖だ。普通の犬はしゃべらない。  犬型妖はそのままガクッと崩れ落ちて顔を覆った。 「蛇神様ともあろうお方が、なんと嘆かわしい……っ!」  カッと目を見開いたかと思うと、ズカズカ近づいてきた。 「長くお傍を離れましたことお許しください! それがしは蛇神様の封印を解く術を探す旅に出ておりました。復活されたと聞き、急ぎ参上した次第であります!」  そのまま土下座する。 「?! ちょ、九郎、知り合い?」 「ん~? 何だよ、いい気分なのに……。ああなんだ、上弦か」  ふにゃふにゃした九郎はけだるげに言った。 「はい、一の配下、上弦でございます! 復活されて、本当に本当に……っ。それがし、うれしすぎて涙で前が見えません!」  一人称が『それがし』って。時代劇に出てくる忠実な家来みたいだな。 「ですが、このお姿はなんですか! 普通の蛇の姿どころか、にやけてだらしない顔をなさって……」 「ストップ」  あたしはビシッと手のひらをつきつけた。 「落ち着きなさい。あんた誰。まずきちんと名乗りなさい。街中で一方的にまくしたてるんじゃないの」
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