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あたしも最初見た時「逆じゃなくて?!」ってツッコんだわ。
「あのね、愛情も物理的にも重い。動けないっ」
ぐぬぬぬぬ。足が一歩も進まない。
えーい。
「もう、仕方ない。九郎、ちっさい蛇の姿になんなさい。入れたげるから」
コートの首元を広げる。
したら四人とも仰天してた。
「九郎様っ、聞きました?! 聞き間違えじゃないですよ!」
「これチャンスですよ!」
「わ、分かってる。東子、マジでいいの?」
「? だって海苔巻き嫌なんでしょ。でも寒い寒い言うから、歩けないし、コートの中入りなさいって言ってんの。そうすればあたしも足自由になる」
「ああ、そういう理由……東子ってけっこう無自覚だよな……。でもいいや、東子大好きーっ!」
ぴょーんと蛇が飛び込んできた。くるりと方向転換し、頭を出す。
「あ~、幸せ~。ほわ~、あったかい……天国……」
「よかったですね、九郎様……っ」
なんで感涙にむせんでんの?
九郎もすごくうれしそうにへにゃへにゃしてる。神の威厳はどこにもない。
いくらなんでもみっともないんじゃ……。
「―――嘆かわしい」
ふいに地の底から這い出るような声がした。
ん?
誰? あたしじゃないよ。
見回すと、電柱の影に大きな黒犬がいた。
いや、犬っぽい妖だ。普通の犬はしゃべらない。
犬型妖はそのままガクッと崩れ落ちて顔を覆った。
「蛇神様ともあろうお方が、なんと嘆かわしい……っ!」
カッと目を見開いたかと思うと、ズカズカ近づいてきた。
「長くお傍を離れましたことお許しください! それがしは蛇神様の封印を解く術を探す旅に出ておりました。復活されたと聞き、急ぎ参上した次第であります!」
そのまま土下座する。
「?! ちょ、九郎、知り合い?」
「ん~? 何だよ、いい気分なのに……。ああなんだ、上弦か」
ふにゃふにゃした九郎はけだるげに言った。
「はい、一の配下、上弦でございます! 復活されて、本当に本当に……っ。それがし、うれしすぎて涙で前が見えません!」
一人称が『それがし』って。時代劇に出てくる忠実な家来みたいだな。
「ですが、このお姿はなんですか! 普通の蛇の姿どころか、にやけてだらしない顔をなさって……」
「ストップ」
あたしはビシッと手のひらをつきつけた。
「落ち着きなさい。あんた誰。まずきちんと名乗りなさい。街中で一方的にまくしたてるんじゃないの」
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