君の目は

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初めて聞いたのは産声ではなく、穏やかな寝息だった。 真っ白な病室。 真っ白なシーツ。 真っ白な保護器。 でも、そのどれでもないんだ。 僕にとって、その部屋の中ではっきりと白く思えたのは、まぎれもなく僕の子供だけだ。 正直、顔つきはグシャグシャで、全く整ってなんかいない。 美しいか? と問われれば、まあ、答にこまることは間違いない。 ただし、かわいいか? と問われれば、迷わずに答え られる。 この子には僕と同じ血が流れているんだ。 そう思うと、何だか重たそうにして閉じられているこの子の目が、どうにも鏡に映った自分の目を見ているように思えてきて仕方ないんだ。 「君はその目で何を見るんだ?」 ふと、僕は眠っている子供に問いかけていた。 キラキラと真っ白なこの子は、きっとまだ、真っ白な世界を見ている。 これから、どんどんと大きくなるに連れて、この子はたくさんの色を見て、知って、成長していくんだろう。 僕は果たして、大人になったこの子に、正しい色彩の世界を見せてあげることができるのだろうか? そもそも、僕自身が今見ている世界の色は、それはこの子に正しいと誇れるものなんだろうか? 真っ白な世界に溺れていくように、どんどんと疑問が湧いて出る。 「……頑張ろう……」 ふと、僕は象牙色の天井に向けて呟いた。 その時だ。 「あれ? アナタ?」 見れば、子供の隣に眠っていた妻が目を覚ます。 ああ。ありがとうを言いたくて仕方ない気分だ。 僕がニッコリと妻に微笑むと、 「隣の子供じっくり眺めて、アナタ、何してんの?」 「……………………」 見れば、妻の寝ているベッドの向こう側に、もう一つの保護器。 そこに寝ているウチの子。 隣の子? え? だって目が似てるし……。 え? 見上げれば全く知らない女性、おそらくは僕が問いかけていた子供の母親が、ジッと僕を睨んでいる。 よくよく見ればつぶった目なんて、人間なら誰でも似ている気がしてきた。 振り返ると妻が、すんごい白い目で僕を見つめていた。 (了)
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