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 僕の名はキスト。  そこの君、危ないよ。生ゴミに黒い絵の具を入れて煮詰めたような、ドロドロとしたものが血管の周りに蠢いているのが視える。君を見ているだけで、僕の心臓はドギュンと締め付けられ、吐き気がするんだ。何か悪意のあることしなかった? 人を虐めたり、悪口を言ったり、妬んだり、僻んだり・・・。何か思い当たらない? そっか、余計なお世話か、悪かった。悪かったよ。そんなに怒るなよ、僕はただの通りすがりの霊力者さ。  こんな力・・・、いや、感謝だ。神様に感謝しかない。  前のあの人は、僕の話を聞いてくれた。耳を傾けてくれた。一歩進めば不幸の泥団子を投げ付けられるような人生を歩んでいたと彼女は言った。愛を誓い結婚した旦那は不倫相手の家から帰って来ず、会社に行けば同僚から煙たがれ、上司からは雑魚扱いされ、綺麗な言葉を使い罵り合うだけの友人達との付き合い。彼女のプライドは、日本刀で内臓をズタズタに切り裂かれたように、赤黒く血しぶきをあげていた。  僕は彼女に伝えたんだ。「死ねってよくいってるでしょ?」って。彼女は一瞬右頬をピクッとゆがませたけど、下唇を咬みながら「ええ」と口の奥で言った。「その癖、すぐにやめてください」と言うと、(はっ? そんなことで状況変わるの? そんなこと聞くために占い鑑定しに来たのではない!)と心の声を発しながら彼女は無表情になった。「死ね、とは最悪な言葉です。何が最悪かと言うと、あなたの魂の次元が地獄に落ちるんです。そうすると、その地獄に生きてる人たちが周りに集まって来る。地獄って、負の境地ですから、そりゃ心がしんどくなるような不幸なことや嫌なことが起こりますよ。まっ、これ以上追及する前に、一度やめてみて環境が変わるかどうか、自分の目で確かめてみたらどうですか?」僕は瞼を上に持ち上げ笑顔で微笑んだ。彼女は納得のいかない能面のような顔で僕をじっと見ていた。手が小刻みに震えているのが分かる。気の強い人、余程イラチな人間なんだろう。
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