赤い色が嫌いなあの人は雪の日も嫌い

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言いながら彼女の腕を掴んでしまったのは無意識だ。 けれども、彼女が驚き騒ぎ立てることはなかった。 窓の外に向けられていた彼女の顔がゆっくりと紅羽の方に向けられた。 ぼんやりとした表情の彼女は、緩慢な動作で自分の腕を掴んでいる紅羽を不思議そうに見上げた。 ガラス玉のような灰色の瞳に、紅羽の姿が映し出されていた。 紅羽はふと違和感を抱いた。 ――何だ? 眉を顰めたものの、違和感の正体を掴むことはできなかった。 無意識とはいえ、初対面で少女の腕をいきなり掴んで詰め寄った自分は相当不審者だろうと、紅羽は少しだけ冷静になってこの手を放すべきかどうすべきか悩んだ。 そこで変化が起きた。 状況が認識できていないかのように、ぼんやりとしていた彼女が急にハッと驚いたように彼を見ると、自分がどこにいるのかわかっていないのか、あるいは、なにかを見失ったかのような、頼りない目で、左右を慌ただしく確認した。 直後、瞬時に表情が引き締まり、虚ろだった彼女の灰色の瞳が、蒼色に染まっていくのが見えた。 思わず目を瞠った紅羽の目の前で、彼女はまるで夢から覚めたかのように、強い輝きを秘めた蒼の瞳を一度瞬きさせる。 ――ようやく見つけた。 強い光を放つ蒼の瞳。 見る者が息をのむような迫力。 そこには確かに、紅羽が探していた人物がいた。 “前の記憶”では女王であった―― 「〝ユリ″」 今度は確信を持って名前を呼ぶと、紅羽の紅の瞳を見つめ返した〝ユリ″の薄い唇から、吐息とともに言葉が零れ落ちた。 「……〝アカツキ″」 「お嬢様!」 刹那、鋭い声が二人の間を切り裂いた。 同時に、フッと糸が切れたように少女の身体が傾いだ。 慌てて抱き留めた彼女の身体は、紅羽の“前の記憶”の中のモノより一回り以上小さく、軽くて頼りなかった。 険しい表情で駆けつけてきた黒いスーツを着込んだ若者が、紅羽から奪い取るように少女をかっさらった。 長身である紅羽よりほんの少し身長が高く、ややクセのある黒髪に眼鏡をかけた若者は、苦々しげに舌打ちした。 その姿が、また“前の記憶”に出てきた別の人物と重なる。 初対面のはずなのに、そうでない感覚。 これは偶然なのか、ただの人違いなのか、他人のそら似なのか。 それでも確認せずにはいられない。 「……〝アオイ″か?」
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