3人が本棚に入れています
本棚に追加
“記憶の中の彼女の従者”とはおそらく年齢も身長も違うものの、態度や纏う雰囲気はまるで変わっていない。
紅羽の呟きに、若者は舌打ちと共に低い声音で返した。
「…………お久しぶりです。〝アカツキ″さん」
その言葉を聞いた紅羽は、彼にも“前の記憶”があるのだと確信した。
「……すみません。急いでるんで、これで」
紅羽が思考の整理に苦悩しているうちに、相手はクルリと踵を返して立ち去ろうとした。
まるで自分から逃げるように。
「おい、待て――」
追いすがろうとした紅羽の腕を、後ろから伸びてきた手が掴んだ。
誰だ、と鋭い眼光と共に振り向くと、見知らぬ金髪の男子生徒が厳しい表情をして立っていた。
学生のようだが、もちろん紅羽の友人ではないし、見かけたことはある、ような気がしなくもないがハッキリ記憶にない。
金髪の男子生徒は、前を行く若者の背に声をかけた。
「竜胆。ここは私が引き受ける」
「……頼みます」
若者は一瞬だけ振り向いて金髪の男子生徒に小さく頷き返すと、それ以降振り向くことなく早々に紅羽の視界から消えた。
とっさに追いかけようとしたが、紅羽の腕を掴んでいる金髪の男子生徒に妨害される。
強い力で掴まれ振りほどくことができなかった紅羽は、苛立たしげに相手を睨み付けた。
「邪魔すんじゃねぇよ。誰だてめぇは」
「アカツキ…いや、今は紅羽か。あのお方に近づくな」
相手が自分の名前を知っていることに驚いた。
短い金髪に、華奢ではあるが自分と同じくらいの長身、冷やかな眼光をした男子生徒。
コイツも“前の記憶”の関係者か、と思い返してみるが、合致する人物がいない。
あの若者――アオイと同じ側の人間の可能性が高いが、残念ながらまったく思い当らない。
こんなヤツ、〝アイツ″の側近にいただろうか。
〝あの国″で見かけた金髪といえば、アイツの右腕だった女くらいだ。
「…………いや」
まさかまさか。
考え付いた答えに、紅羽は何とも言えない表情をした。
***
最初のコメントを投稿しよう!