赤い色が嫌いなあの人は雪の日も嫌い

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“記憶の中の彼女の従者”とはおそらく年齢も身長も違うものの、態度や纏う雰囲気はまるで変わっていない。 紅羽の呟きに、若者は舌打ちと共に低い声音で返した。 「…………お久しぶりです。〝アカツキ″さん」 その言葉を聞いた紅羽は、彼にも“前の記憶”があるのだと確信した。 「……すみません。急いでるんで、これで」 紅羽が思考の整理に苦悩しているうちに、相手はクルリと踵を返して立ち去ろうとした。 まるで自分から逃げるように。 「おい、待て――」 追いすがろうとした紅羽の腕を、後ろから伸びてきた手が掴んだ。 誰だ、と鋭い眼光と共に振り向くと、見知らぬ金髪の男子生徒が厳しい表情をして立っていた。 学生のようだが、もちろん紅羽の友人ではないし、見かけたことはある、ような気がしなくもないがハッキリ記憶にない。 金髪の男子生徒は、前を行く若者の背に声をかけた。 「竜胆。ここは私が引き受ける」 「……頼みます」 若者は一瞬だけ振り向いて金髪の男子生徒に小さく頷き返すと、それ以降振り向くことなく早々に紅羽の視界から消えた。 とっさに追いかけようとしたが、紅羽の腕を掴んでいる金髪の男子生徒に妨害される。 強い力で掴まれ振りほどくことができなかった紅羽は、苛立たしげに相手を睨み付けた。 「邪魔すんじゃねぇよ。誰だてめぇは」 「アカツキ…いや、今は紅羽か。あのお方に近づくな」 相手が自分の名前を知っていることに驚いた。 短い金髪に、華奢ではあるが自分と同じくらいの長身、冷やかな眼光をした男子生徒。 コイツも“前の記憶”の関係者か、と思い返してみるが、合致する人物がいない。 あの若者――アオイと同じ側の人間の可能性が高いが、残念ながらまったく思い当らない。 こんなヤツ、〝アイツ″の側近にいただろうか。 〝あの国″で見かけた金髪といえば、アイツの右腕だった女くらいだ。 「…………いや」 まさかまさか。 考え付いた答えに、紅羽は何とも言えない表情をした。 ***
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