赤い色が嫌いなあの人は雪の日も嫌い

脆く儚いあの人の執事とあいつの傍で見守り続ける少女

――どこへ行くのですか？

始めは言葉通りの意味だと彼は思っていました。
だから、普通に行き先を告げると、
あの人だけどあの人じゃない人は、そうですか、とだけ返してきます。
そして、それきり黙りこむのでした。

けれども、何度もその言葉を耳にするたび、彼はだんだんと違和感を覚えました。

部屋から出て行こうとした時、傍を離れようとした時、引き下がろうとした時
どこかぼんやりとした表情で、あの人だけどあの人じゃない人は言うのです。

――どこへ行くのですか？　と

どこか虚ろな灰色の瞳の中に、どんな感情が隠されていたのか、その時の彼にはまだわかりませんでした。

彼がその言葉に隠された本当の意味を知ったのは、ある少女が教えてくれたからでした。
彼の知り合いである、色素の薄い長髪に榛色の瞳をもつ少女は言いました。

「それ……“行かないで”って意味だと思う」

“前”よりも成長していて、大人に近づいていたその少女は、
何かを思い出すように、そっと瞳を伏せて寂しそうな顔をして言いました。

「……私も、言えなかったから」

その時の対話で、彼は全てを察しました。
“行かないで”
この言葉が、本当は“誰に”向けられたものなのか――

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