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Three days after
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喫茶店の扉を開けるとカランとベルが鳴った。
「――おい」
「あ。紅羽さん、いらっしゃいませ」
出迎えたのは、喫茶店マスターの皐月ではなく、アルバイトの夕陽が笑顔を浮かべる。
紅羽は店内に視線を巡らせて、無人のカウンターを見とめると問う。
「皐月はどこだ」
「あー……今日は俺が、店番まかされてます」
「チッ……逃げたなアイツ」
舌打ちとともに顔をしかめた。
苛立ちを隠しもせず周囲を威圧する紅羽に、何人かの客がそそくさとレジに向かう。
それに笑顔で応対しているのは、この店の看板娘でもあるアルバイトの楓だ。
「何かあったんスか?」
事情を知らない夕陽が首をかしげながら問いかけたが、紅羽は何でもないと言う。
ふと顔を向けた先に、“前の記憶”の中で見覚えのある顔を見つけた。
この際ダメ元でも聞いてみるに越したことはない。
紅羽は、窓際のテーブル席へと近づいていく。
「おい、てめぇら」
テーブル席に座っていたのは二人の男女の学生だ。
見た所中学生くらいだろう。
いきなり近づいてきた不良にしかみえない紅羽を見て、女子学生があからさまにビクリと肩を震わせた。
「ひっ……そ、蒼、知り合い?」
見るからに怯えた様子で、長い髪を後ろで結わえた眼鏡の女子学生が、向かいに座る男子学生に小声で問う。
問われた男子学生は、紅羽と目を合わせないようにしながら早口で返す。
「いや知らない。初対面だ」
全力で無関係だと主張するように激しく首を横に振る男子学生。
どちらも自信を持って断言はできないのだが、おそらく“前の記憶”の中で、彼女の周囲にいた人間、彼女のテリトリーで見かけた顔だと思う。
紅羽はそんな彼らに一縷の望みを託して単刀直入に尋ねてみる。
「アオイ、ユリ、この名前に聞き覚えはないか」
女子学生は全力で首を振る。
「し、知りません」
対して男子学生は視線を逸らしたまま呟く。
「同じく」
紅羽は、しばらく無言で二人の様子を窺っていたが、それ以上得るものがないと分かるとため息をついてテーブルから離れた。
「邪魔したな」
そう言いながらも紅羽の勘が告げていた。
あの男子学生は怪しいと。
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The same time
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瑠璃、皐月、椿の3人はとあるカフェで作戦会議をしていた。
二人の美男に一人の美少女という組み合わせは、店内でなかなかに注目を集めている。
「――ヤバイ。もうごまかすのは無理だ」
まず口火を切ったのは皐月だ。
「そこを何とかするのが、貴方の役目だろう」
弱音を吐く皐月を厳しくたしなめたのは瑠璃だ。
「無茶言うなって! 俺が殺られるわ!」
肩を落とす皐月を瑠璃は冷ややかな瞳で見つめる。そこへ椿が割って入る。
「……皐月が教えなくても、楓が教えちゃうかもしれない」
その言葉には両者共に、あー…とため息をついた。
「楓か……何とか口止めできないか?」
「……もう、瑠璃のことは紅羽に知られちゃった」
申し訳なさそうに告げた椿に、瑠璃はバレてしまったという事実には一瞬だけ顔をしかめるにとどめ、すぐに諦めたように肩をすくめた。
「――それは、……仕方がないことだ。気に病む必要はない」
「……あの人のことは言わないように、楓にお願いしてみる」
さっそく携帯を取り出してメールを打ち始める椿を見て、皐月も念のためにとメールで今日のバイトリーダーである夕陽に口止めをしておく。
「…………あー……アイツ、まさか今頃俺の店に来て、暴れたりしてないだろうな……」
アイツとはもちろん紅羽のことだ。
情報がつかめないことにいら立っているだろうことは、想像に難くない。
そして情報を吐かせに皐月の店に足を運ぶ可能性もなくはない。
「その可能性は……なくはない、な」
皐月の不安を煽るように瑠璃が淡々とした口調で言う。
「……今日、紅羽お店行くって言ってた」
そしてそれを裏付けるような椿の発言に、皐月はがっくりとうなだれた。
「終わった俺の店……」
見るからに落ち込む皐月に、瑠璃が慰めともいえないフォローをする。
「今日貴方がお店にいたら、逆に貴方が終わっていたかもしれないな」
「怖いこと言わないで……それマジでありえるから」
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