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“前”生きていた時、ユリ様とこんな話をしたことがある。
「アオイは……生まれ変わりとか信じますか?」
「はい? ……なんですかいきなり」
“戦争”が終わった冬が過ぎて、春になりつつあった時だったと思う。
ユリ様の問いかけは唐突で、その時は、また面倒臭いことを言いだしたな、と思っていた。
しかも、生まれ変わりとか。
話のネタがアレなだけに、まだこの御方は“あの終戦”のことを引きずっているのかと危惧した。
いや、引きずらない方がおかしいか。
それほど大きな戦だったのだから。
「信じません。実体験でもしない限り。……したくもないですけど」
このタイミングでそういうネタを持ち出してくることに、何か意図があるのかと勘繰らずにはいられなかった。
それとも無意識だったのか。
「ユリ様は……もう一度人生を、やり直したいのですか」
だから問わずにはいられなかった。
心の傷はすぐには癒せない。
いや、あと何十年たったとしても、ユリ様が負った心の傷が完全にふさがることはないだろう。
問いかけに、ユリ様は苦笑するように返した。
「そうですね……そういうつもりで言ったのではないのですが。もし可能ならば……穏やかで、平和な世界で、普通に生きてみたいですね」
さらりと言われたあの御方の願望。
それが本心なのか冗談なのかは、その時はわからなかった。
わかろうともしていなかった。
あの御方が、“あの終戦”に囚われたままだということに気が付かなかった。
「そう真面目に考えないでください。……フィクションなどでもよくあるじゃないですか、転生とか、前世の記憶があるとか」
「……ユリ様は欲しいのですか。転生してまで、前世の記憶とか」
仕方なくというように、しぶしぶ主の暇つぶしの雑談に付き合う姿勢で尋ねた。
「……それは、なかなかに興味深いですが……欲しい、とは思いませんね」
「………………自分で言っておいて、いらないって何ですか」
思わず舌打ちとともに毒づくと、ユリ様が含み笑いを向けてきた。
「おや、何か言いましたかアオイ?」
「いえ別に」
「ふふ……まぁいいでしょう。……せっかく生まれ変わるのでしたら、今の記憶は必要ないと思いませんか」
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