3人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「――悪い、椿、楓。先に帰っててくれ」
「どしたの? 急用?」
キョトンと首をかしげた楓に曖昧に頷く。
なら仕方ないね、と楓がすぐに引き下がったが、椿はとっさに紅羽の腕を掴んだ。
「ダメ、紅羽!」
「椿?」
妙に切羽詰まったような椿の様子に、紅羽だけでなく楓も驚いたように目を見開いた。
訝しげな表情をする紅羽を見上げた椿は、自分の行動にハッとしたように戸惑ったのち、どうしようというようにあたふたし始める。
「えっと……あの……」
椿は紅羽から目を離さないようにと皐月から頼まれていた。
それは紅羽をある人に会わせないためなのだと、椿は理解していたし、校内においてそのための協力もしていた。
そして、何故急に紅羽が先に帰れと言いだしたのか、椿はわかっていた。
「……とにかく、紅羽は、帰らないと、ダメ」
不味いことに、紅羽が誰を見かけてしまったのか、わかっていた。
だから、椿は必死に引き止める。
紅羽とその人を、会わせてはいけないのだから。
「……椿」
低くい声音で呼ばれて、びくりと肩を震わせる。
楓は困ったように見守っている。
「……何か、知ってるのか」
珍しく必死な椿の行動は、紅羽に不信感を抱かせた。
紅羽は皐月が何か隠し事をしているのを察していた。
察してはいたが、無理やり聞き出すようなことはしなかった。
面倒臭かったというのもあるが、知らなくても大したことはないのだろうとも思っていた。
だが、今の椿を見ていて気が付いた。
おそらく皐月は、自分が知りたい情報を隠しているのだと。
チラリと見かけたのは一瞬だけ。
人違いの可能性もあったが、自分の勘が確認すべきだと告げている。
行かせまいとギュッと腕を掴んでいる椿の手を振りほどくのは、かなり心が痛いが、紅羽はどうしても確かめたかった。
「悪い、椿」
手加減しながら振りほどくと、二人を撒くようにして再び校内に駆け戻った。
***
最初のコメントを投稿しよう!