赤い色が嫌いなあの人は雪の日も嫌い

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*** 「――悪い、椿、楓。先に帰っててくれ」 「どしたの? 急用?」 キョトンと首をかしげた楓に曖昧に頷く。 なら仕方ないね、と楓がすぐに引き下がったが、椿はとっさに紅羽の腕を掴んだ。 「ダメ、紅羽!」 「椿?」 妙に切羽詰まったような椿の様子に、紅羽だけでなく楓も驚いたように目を見開いた。 訝しげな表情をする紅羽を見上げた椿は、自分の行動にハッとしたように戸惑ったのち、どうしようというようにあたふたし始める。 「えっと……あの……」 椿は紅羽から目を離さないようにと皐月から頼まれていた。 それは紅羽をある人に会わせないためなのだと、椿は理解していたし、校内においてそのための協力もしていた。 そして、何故急に紅羽が先に帰れと言いだしたのか、椿はわかっていた。 「……とにかく、紅羽は、帰らないと、ダメ」 不味いことに、紅羽が誰を見かけてしまったのか、わかっていた。 だから、椿は必死に引き止める。 紅羽とその人を、会わせてはいけないのだから。 「……椿」 低くい声音で呼ばれて、びくりと肩を震わせる。 楓は困ったように見守っている。 「……何か、知ってるのか」 珍しく必死な椿の行動は、紅羽に不信感を抱かせた。 紅羽は皐月が何か隠し事をしているのを察していた。 察してはいたが、無理やり聞き出すようなことはしなかった。 面倒臭かったというのもあるが、知らなくても大したことはないのだろうとも思っていた。 だが、今の椿を見ていて気が付いた。 おそらく皐月は、自分が知りたい情報を隠しているのだと。 チラリと見かけたのは一瞬だけ。 人違いの可能性もあったが、自分の勘が確認すべきだと告げている。 行かせまいとギュッと腕を掴んでいる椿の手を振りほどくのは、かなり心が痛いが、紅羽はどうしても確かめたかった。 「悪い、椿」 手加減しながら振りほどくと、二人を撒くようにして再び校内に駆け戻った。 ***
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