赤い色が嫌いなあの人は雪の日も嫌い

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*** 紅羽は校内を駆け回っていた。 見かけた人影が向かっていったのは、この方角だったはずだと頭の中で確認する。 周囲に目を走らせながら歩いていると、別棟に繋がる連絡通路に誰かが立っているのが見えた。 窓の外へと顔を向けて、通路の半ばで立ち止まっている何者かに紅羽は目を奪われた。 透明で儚い立ち姿だった。まるで精霊かなにかのような。 おそるおそるというように、ゆっくりと紅羽が近づいていっても相手が動く気配はなかった。 近づくにつれて、ハッキリと姿を認識できる。 そこにいたのは、翳りのある女子生徒だった。 彼女は、静かな影をまとって、そこに立っていた。 儚げと言うのだろうか、目を離したらどこかに消えてしまいそうな、そんな気配が彼女にはあった。 瞬きしたその瞬間に目の前から消えてしまうのではないかと、紅羽は半ば本気で思った。 とりあえずは、消えなかったが。 影が薄く、少し幽霊のような雰囲気ではあったが、“初めて出会った”その女子生徒は儚げで美しかった。 帰るときに見かけたのは、コイツだと紅羽は確信する。 だが、自分が想像していた姿とあまりにもかけ離れていたために、わずかに眉を顰めた。 おそらく校内で会ったことはない。見かけたのも今日が初めてだ。 一度会ったら忘れたくても忘れられそうにないほど、不思議な雰囲気の綺麗な少女だった。 だが――“今の記憶”では会ったことはない。……はずだ。 紅羽は、窓の外に向けられたまま微動だにしない彼女の横顔をぼんやりと見つめる。 ――だけど、 白い肌に細い顎、整った鼻梁、切れ長の眼をした知的な表情。 ――俺はコイツを知っている 青みがかかった黒い髪はとても長くて、腰のあたりまである。 ――だってこんなにも、似ている 痩身に仕立ての良い和服が似合っていて日本人形のような、楚々とした風情の美人である。 ――“前の記憶”に出てくる彼女に “彼女”も“前のこと”を覚えているのだろうか。 ――そう言えば、“最後のあの日”もこんな風に真っ白な雪が積もっていたはずだ 和服の少女の優美さに少しだけ気圧されながら、紅羽は“記憶”にある“その名”を戸惑いがちに呟いていた。 「ユリ……?」
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