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それは、あずさの部屋にある3合炊きの炊飯器と同じ程の背の高さで、二頭身のぬいぐるみのような姿をしていた。着物に袴を履き、若い侍のように前髪のある髷姿だ。どこかの地域や幼児向けアニメなどのマスコットキャラクターを思わせる。
黒豆のような瞳に愛嬌があるためだろうか。得体の知れないものだというのに不思議と不気味さは感じなかった。
生き物なのかどうかすら分からない『それ』を前にして、あずさは声を発することも出来ずにいた。目を見開き、ただただそれを見つめることしか出来ない。
けれどそれは、あずさの様子を気にも留めていないようだ。コミカルな見た目にそぐわない、中性的な声で話し続けている。
「某、米田新之丞友盛と申す。米に宿り、守護する者。以後、よろしく頼む」
米田新之丞友盛と名乗ったそれは、ぺこりと腰を折った。
「あっ、ええと、私は」
「あずさ殿、であるな」
「どうして」
私の名前を知っているのですか。驚愕に喉が締まり、その問いを音にすることはできなかった。けれど米田新之丞友盛はあずさのぎもんを汲み取ってくれたようだ。
「なに、驚くこともなかろう。某は、貴殿のご実家より参ったのだ。貴殿のことも、貴殿のご実家のことも、よく知っておる」
突然のことに、あずさは咄嗟に返す言葉が見つからなかった。実家からとは、どういうことなのだろう。そもそも、これは現実の出来事なのか。夢の続きを見ているのではないだろうか。
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