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ごはんのおとも
あずさの一日は、炊きたてご飯の薫りとともに始まる。東京都内に建てられた1Kのアパートに住んでいるあずさは、寝室兼居間となっている部屋に炊飯器を置いていた。そのため、炊飯器の立てる音や薫りが優しくあずさを目覚めさせるのだ。
ぐつぐつと米の沸騰する音が、あずさの意識を眠りから徐々に引き上げる。次第に部屋に広がってゆく、食欲をそそる炊きたてご飯の薫り。白く輝く炊きたてのご飯が未だ寝ぼけている脳裏に浮かび、あずさの胃はクルルと鳴き声を上げた。しかも今日の米は、秋田の実家から一昨日届いたばかりの新米だ。数日前まで炊いていた米と比べ、より芳醇な薫りが炊飯器から立ち上っていた。
目を開けば、早朝の白い日差しがカーテンの隙間から天井を照らしていた。炊飯器が賑やかに歌い、準備が整ったと告げる。しばし遅れて、スマートフォンのアラームがけたたましく鳴り響いた。
ゆっくりと起き上がり、大きく伸びをする。そうして炊飯器に視線を向けたところで、あずさはようやく『それ』の存在に気が付いた。炊飯器の前に、見覚えのない何かが鎮座している。
それは喜んだように口を開いた。
「おお、お目覚めになられたか」
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