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「そうだね。歴史は、改変される。その覚悟があるなら、契約書にサインしてくれ」
のっぺりしながらも、神妙な面持ちをつくって言ってくる警察官……そもそも、俺が今言わなかったら、この事実を知らないままタイムリープしてたからな……!
しかし、歴史が改変されるのは、なかなか、勇気のいることである。
かといって、この研究の契約に、サインしないという選択肢は、俺にはないのだが……。
これまで過ごしてきた、高校一年生から大学四年生までの約六年半。この時間が、変わってしまうと思うと、なんだかこれまで経験したことのないような、複雑な気持ちになる。
(諒人! 俺、お前と友達になれて、良かったなあ)
(……私、やっぱり諒人のこと好きみたい)
(大学合格! おめでとう! なにか、久しぶりに家族みんなで、美味しいもの、食べに行こっか)
(俺たち、これからもずっと友達だからな。結婚したら、みんなで集まってホームパーティーしたりさ)
たくさんの思い出が、俺の頭の中に流れ込んでくる。
……ペンを持つ手が、進まない。
短い人生だっけど、死んでみて、よくわかる。
たくさんの幸せや感謝が詰まった、恵まれた日々を送ってきたのだと。
卒業式や、別れの節目に感じる気持ちとは、少し似ている。胸が少し痛くなる、切ない気持ち。
不思議なもので、その時の渦中では、どんなに嫌だ、苦しい、平凡、つまらないと思うものでも、時が経てばなぜか、懐かしくて温かい思い出に改変されていく。
契約書へのサインを書こうとしながらも、一方で、綺麗な宝箱に宝物をしまうような……そんな気持ちに、襲われていた。
「……今更、自分の人生が、幸せだったんだなって気づいたよ」
「それは、良かった。綺麗な人生、消すのは、悔やまれるかな?」
「悔やまれないと言ったら、嘘になるよ。でも、幸せだったって気づけた分……もう少し周りにも優しくできるような、そんな人生に、次はしてくるよ」
警察官は、俺がそう言うと目を伏せて、口元に笑みを描いた。
「そうか……それは、心強いね」
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