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俺たちは、前にしか進まない生き物だった。
「あと30キロかあ」
「もう亜里沙たち、着いてるってよ」
「あ、次、俺聞きたい曲あるんだけど、かえていい?」
バーベキューをしに行くために、車を走らせる男子大学生四人。
「お! これめちゃくちゃ懐かしいな」
「体育祭とかで流れたわ、めっちゃ思い出す」
全員同じ学校にこそ進学はしなかったが、高校生の頃からずっと一緒で、今も定期的に集まって遊んでいる四人組だ。
半年後に入社する内定先への一抹の不安を、胸に抱えながら……高校生の頃に聞いていた、懐かしい曲を流し、みんなで声を合わせて歌う。
自分たちの人生に終わりがあるなんて、全く、想像もしていない。
「そうそう。本当、懐かしいよな」
そんな、タイミングを狙って……ある日、白い悪魔の黒い影は、俺たちを襲いにきた。
「……隆臣! やばい!」
面接や社会人デビューに備えて、いくら語彙力を鍛えようが……本当にやばい時は「やばい」しか、言えなくなるのだ。時間の関係上。
何を伝えられるでもなく、俺と三人の友人たちは、対向車線から外れてやってきたトラックに、一瞬で、飲み込まれた。
(俺たちは、いつしか本当の意味で、見るのを諦めていた。自分の目に見えるもの、それが全てだと、思い込んでいたから。みんなに共通に約束されたものなんて、ないのに)
懐かしい歌詞が、聞こえてくる。
高校時代、部活の帰り道、イヤホンをさして繰り返し聞いた、あの曲を。
それが、この時の、最後の記憶。
◆
次に目を醒ました場所は、辺り一面、真っ白な世界だった。
何もない。どこが床なのか、壁なのか、天井なのか。何一つわからない空間の中。俺は段々と、トラックと衝突した最後の記憶を、思い出し始めていた。
「……間違いなく、死んだはずだ」
俺はむくりと起き上がり、自分の身体をぺたぺたと触ってみた。しかし、どこにも傷口はない。
「よく、漫画とかである、精神体、みたいな状況だったりして」
「そうそう。まさにそんな状況」
唐突に、上から降りかかってきた声に、俺は肩を跳ね上がらせた。
見上げるとそこに居たのは、これまたありがちな、羽根の生えた天使……なんかでは決してなくて。なぜか、警察官が俺の目の前に立っていた。
どこからどう見ても、よく、交番に立っている警察官だ。胸ポケットにはトランシーバーのようなものが、腰には警棒がささっている。
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