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ましてや、九十九年もかけて地獄ツアーをするなんて、考えただけで気持ち悪くなり、咽せ返りそうになってきた……。
いや、そもそも、なぜ俺が地獄行きなのだろうか?
これまで犯罪を犯したこともない、逮捕歴もない。そこそこ真面目に勉強もして、家族や友人との関係も良好。
普通に生きてきたはずだ。
……俺が納得いっていない様子が伝わったのだろう。
警察官は何やら手帳みたいなものを出し、読み上げ始めた。
「向井くん。君は、現世で、一人の女の子の人生を悪い方に導いた記録があるね」
「女の子……?」
「そう。名前は、三雲栞那。高校一年生の時に、君が三ヶ月間、隣の席だった女の子だ。彼女は入学してすぐに、君が隣の席になり、酷い態度をとったせいで……その後の高校生活も悪い方向にいってしまったと記録されている」
三雲栞那。
もう、長い間、思い出さなかった名前だ。
いつも、辛気臭い顔していた女の子。
ぼさぼさの髪、長いスカート。
地味で暗くて、正直、気持ち悪い。
だから俺は、三雲さんが教科書を忘れても、見せてあげなかった。
掃除当番が一緒になっても、やらずに帰った。
嫌いだったからだ。
「確かに、酷い態度はとった……それは間違いじゃない。でも、それだけで地獄行きって……」
「君がそれだけ、と思う基準って、あくまで君の中の基準にしか過ぎないよね?」
警察官の言うことは、真正面から俺の言葉を論破してくる正論だ。
「でも、相手を好きか嫌いか決めるのも、人それぞれの基準だろ」
普段の俺だったら、警察官に言われたど正論に対し、おっしゃる通りですと頷いただろう。
だが、これはよくある、学校の先生が喧嘩の仲裁に入ってきて、子供たちを諭すそれとは、内容は近くとも状況はまるで違うのである。
ここだ食い下がらなかったら、待ち受けるのは、得体の知れない地獄とやらだ。
「うん。そうだね。確かに、君の言うことも正論だ」
警察官はゆっくり頷くと、また手帳をめくり、ページに挟まれていた、一枚の記事を取り出した。
「これを読んでごらん」
俺は、恐る恐る、記事を手に取った。
古い新聞記事だった。
記事の大きさとしては小さく、ちょっとしたコラム記事ぐらいのスペースだ。写真などもなく、文面のみ。
日付は、俺が死んだ日から約三年前ぐらい。
大学に入学したばかりの時だ。
記事には、事件の概要だけ書いてあった。
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