第0話 冥界のおまわりさん

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<無職女性 飛び降り自殺か> 20××年4月10日 午後9時半頃、××県 河潜市(かせんし) マンション住人からの通報により、警察官が駆けつけたところ、三雲栞那さん(18)が遺体で見つかった。 住んでいた同マンションの屋上から、飛び降り自殺をはかったと見て、警察は捜査を続けている。 …… 三雲栞那という、無職の女性が、マンションから飛び降りて死んだ。 それだけの事実しか、書いていない。 関係ない人が読んだら、 数秒で読み流してしまうような記事だ。 よくある話だ。 屋上からの飛び降り自殺も。 そして、学生の事故死も。 毎日、どこかしらで起こっている。 でも、俺たちは前以外のところ……すぐ近く、時には裏側、真上真下……他のところで、何が起きているかなんて、気にも留めないのだ。 俺は気づかない間に、見えないところで張り巡らされたピアノ線の様なものに、雁字搦めになっていたらしい。 「……三雲さんって、自殺、したんだ」 「うん。そうみたい。だから、君がここでいくら弁論しても、もうこれって変えられない事実なんだ」 暗い奴だとは思っていた。 思っていたが、今こんなにも俺が事実から抵抗して、戻りたいと思っている場所を……三雲さんは自ら手放したなんて。 同じ教室の、隣の席に座っていたのに。 俺と、三雲さんの思考、価値観、想い……人生は全然、別物だった。 「君が今、地獄行きのパスを渡されそうになってるってことは、君の影響力は大きかったということなんだ」 俺の影響が、三雲さんに対して大きかったと、数年の時を経て告げられるとは思わなかった。 俺にとっては、三雲さんが隣の席だったのはたったの三ヶ月間で、それからは一切、言葉を交わしたことはなかったからだ。 そして、俺の三雲さんへの態度、言動は、嫌な気持ちにさせたかもしれないが……地獄行きのパスをもらうことになるほど、彼女の気には溜まってないことだと思っていた。 「そんなに、俺のしたこと、俺の存在って、三雲さんに悪い影響を与えていたのか……」 「相手の気持ちって、どれだけ努力しても、直接受け取ることってできないよね。 相手の言葉が本当なのか、本当はどんなことを思っているのか。 知る方法なんて、実は世界中探しても、どこにもなくて。 最後は、主観で相手の気持ちも言葉も受け取るしかない。 君がそんなつもりがなかったことでも、この子は、どんな受け取り方をしていたんだろうね」
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