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三雲さんが、どんな風に思っていたのか。
何を感じ、何を考えていたのか。
今、こんなことになるまでは、考えたことも、三雲さんのことを思い出したこともなかったのに。
都合の良い、勝手な人間だと思う。
でも俺は、今、二度と彼女と話すことができないのに。
話したいとも思ったことがなかったのに。
話して、聞いて、受け止めて考えて、少しでも理解したいと思ってしまった。
こんなことになっているから、そう思ったのか。
大学にも行って、いろんな経験や、就職活動も通して、少しは高校の頃と価値観が変わったからか。
多分、理由はひとつではない。
たくさんのことが結びあって、今、そう思う俺が居るのだろう。
「向井くん。彼女のこと、今少しでも知りたいって思ったなら……ひとつ、僕から提案があるんだけど、どうだろうか」
「提案……?」
警察官は、にっこり笑って頷いた。
「そう。君たちは、ラッキーだよ。再生プログラム。今、試験的に冥界と地獄が提携して、取り組んでいる研究……この研究に推薦を受けているんだ。良かったらこれに参加して、三雲栞那を、救ってみないか?」
再生プログラム。
冥界、地獄、三雲栞那……そして、研究への参加。
立て続けに展開されていく、書店に積まれた安っぽい、ファンタジー小説のような話。
「地獄行きの切符が発行された魂に、もう一度、機会を与える為に行われている研究なんだ。地獄行きになった原因と向き合い、過去を変えてきてもらう。タイムリープ、だよ」
警察官は、再生プログラムと表紙に書かれた薄い白のパンフレットを取り出し、俺に渡してきた。
ぱらぱらめくっていくと<自分の罪と向き合い、もう一度、現世での人生を更生させるプログラム>と書いてあった。
年々、地獄行きになる魂の増加率が高くなっているため、少しでも更生の可能性のありそうな魂を、善良な道に戻すとか……。
「タイムリープって、そんなこと、できるのか?」
「冥界はね、なんでもできるんだよ」
なんでもできるけど、街中の光景やある物は、現世となにも変わらないんだけどねえ、と警察官はのんびりと告げた。
「俺の場合、三雲さんの人生を悪い方向に導いたことと、向き合うということか……?」
「そう。彼女の人生を悪い方向に導いた原因と、向き合う。そして、彼女を、救いに行ってほしいんだ」
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