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俺がこの一瞬の間に、もう一度やり直したいと思った時間に、向き合えるかもしれない。
「研究課題をクリアすれば、君の地獄行きはなくなる。ただ、寿命は決まったものだから変わらず、今回の死から、逃れることはできない」
一瞬、そう聞いて残念な気持ちが全くなかったと言ったら、嘘になる。
けれど……それでもいい。
もう死んでしまったことは取り戻せない。
(三雲さんを、救えるかもしれない)
過去に戻って向き合うなんて、決して、良いことばかりじゃないのはわかっている。
向き合いたくないものと、向き合わなければならない場合もあるだろう。
それでも俺は……
「俺、このプログラム、受けたいです……くそったれな自分も変えて……三雲さんを救いたい」
学生の頃から好き勝手やってきて。
結局、社会に出ることもなく……人のために、人の役に立てないまま終わってしまった人生だけど。
終わった人生のそのまた最後、終わりの終わりぐらい、誰かの役に立ちたいと、エゴだけど、思ってしまったのだ。
「いいね。それにしても人って、不思議だよね。本当の意味でなんにもなくなると、人のためにって気持ちが、やっと湧いてくるんだよね」
警察官の言葉が胸に突き刺さる。本当にそうだ。言い返しようもない。
時間、金、努力、才能、人の目線、評価。
生きていくためには、色んなものが多すぎる。
死んでしまったら、なんもいらない分、身軽なんだ。
「思い切りが良くて、助かるよ。じゃあ、研究課題を書いた契約書を渡すから、サインだけほしいな。そして地獄に提出すれば、準備完了だ」
「結構、あっさり準備できるんだな……」
契約書が取り付けられたクリップボードを渡され、俺はサインをすることにした。
これから心を入れ替えて、三雲さんを救う!
そんな決意が、契約書を読んで、早速、めきめきとひび割れていくのを感じた。
「向井諒人様、研究課題、三雲栞那の恋人になり、未来に起こる彼女の死(注釈、寿命満了ではない死のため、タイムリープによる 死の予防対象である)を阻止すること……」
「そうそう。そういうわけ」
「おい! なんか話と違う気がするんだが……!」
三雲さんを救うことまでは、俺の気持ちとしてもそうしたい。しかし、その手段が、三雲さんの恋人になること?
あの、髪がぼさぼさでださくて、ださい眼鏡をかけてて、膝下まで伸ばしたスカートを履いててださい……三雲さんと?
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