第0話 冥界のおまわりさん

8/11
前へ
/12ページ
次へ
俺がこの一瞬の間に、もう一度やり直したいと思った時間に、向き合えるかもしれない。 「研究課題をクリアすれば、君の地獄行きはなくなる。ただ、寿命は決まったものだから変わらず、今回の死から、逃れることはできない」 一瞬、そう聞いて残念な気持ちが全くなかったと言ったら、嘘になる。 けれど……それでもいい。 もう死んでしまったことは取り戻せない。 (三雲さんを、救えるかもしれない) 過去に戻って向き合うなんて、決して、良いことばかりじゃないのはわかっている。 向き合いたくないものと、向き合わなければならない場合もあるだろう。 それでも俺は…… 「俺、このプログラム、受けたいです……くそったれな自分も変えて……三雲さんを救いたい」 学生の頃から好き勝手やってきて。 結局、社会に出ることもなく……人のために、人の役に立てないまま終わってしまった人生だけど。 終わった人生のそのまた最後、終わりの終わりぐらい、誰かの役に立ちたいと、エゴだけど、思ってしまったのだ。 「いいね。それにしても人って、不思議だよね。本当の意味でなんにもなくなると、人のためにって気持ちが、やっと湧いてくるんだよね」 警察官の言葉が胸に突き刺さる。本当にそうだ。言い返しようもない。 時間、金、努力、才能、人の目線、評価。 生きていくためには、色んなものが多すぎる。 死んでしまったら、なんもいらない分、身軽なんだ。 「思い切りが良くて、助かるよ。じゃあ、研究課題を書いた契約書を渡すから、サインだけほしいな。そして地獄に提出すれば、準備完了だ」 「結構、あっさり準備できるんだな……」 契約書が取り付けられたクリップボードを渡され、俺はサインをすることにした。 これから心を入れ替えて、三雲さんを救う! そんな決意が、契約書を読んで、早速、めきめきとひび割れていくのを感じた。 「向井諒人様、研究課題、三雲栞那の恋人になり、未来に起こる彼女の死(注釈、寿命満了ではない死のため、タイムリープによる 死の予防対象である)を阻止すること……」 「そうそう。そういうわけ」 「おい! なんか話と違う気がするんだが……!」 三雲さんを救うことまでは、俺の気持ちとしてもそうしたい。しかし、その手段が、三雲さんの恋人になること? あの、髪がぼさぼさでださくて、ださい眼鏡をかけてて、膝下まで伸ばしたスカートを履いててださい……三雲さんと?
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加