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「消えたな。この世から」
俺は密かに手を合わせた。妖怪と関わらなかった事には全くもって後悔などしてないし、寧ろ正解だったと自負している。が、そのあまりに短い生涯には流石に同情せざるを得ない。雪と一緒に現れ、雪と一緒に消え、そして人々の記憶からも消えてしまう。何と儚いのだろうか。
彼女がいた頃の事は決して良い思い出だったとは言えないが、彼女が存在した事は俺だけでも覚えておいてあげよう。
舞い散る桜の花びらを眺めながら、俺はそう誓った。
……のだが。
「突然ですが、皆さんに転校生を紹介します」
「雪原ましろです。どうぞよろしく」
約八ヶ月後。彼女は見事に甦った。
この時、俺は漸く理解した。
妖怪に死など訪れない事、雪原ましろは冬が来る度に何度でも転校してくる事。
そしてそれはおそらく、俺が卒業するまで続く事────。
だから、もう特に驚きなんてない。
「突然ですが、皆さんに転校生を紹介します」
「雪原ましろです。どうぞよろしく」
ただ静かに、冬の訪れを感じるまでだ。
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