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教育の場で生徒との間に厄介事を抱えるつもりはないのだ。もちろん種を蒔いたのが自分であるという事実は、この際無視して。
「先生のこと知りたくなったんで、まずは挨拶でもと思ったんです」
彼は不敵な微笑を浮かべ、まるで殊勝な生徒であるようなセリフを、その形の良い口から吐いてみせる。
涼は深い溜息をついた。
写真がこの生徒の手に渡ったことも不味かったが、そのことで自分と取り引きできると思っているところがいかにも子供の考えそうなことである。
「僕を知りたいというなら、まずはそれを返してくれることが近道だと思うんだが?」
あくまで教師然とした態度を崩さず、助言をする涼に、生徒は一瞬呆けたようにきょとんとし、次にはおかしそうに笑った。
それは高校生らしい、無邪気なもの。
それには涼も毒気を抜かれ、思わず力が抜けてしまう。
だが。
「これは返しません。ただ、俺が持ってることだけ知ってて欲しくて」
人好きしそうな笑みを浮かべたまま、口にしたのは傲慢ともとれるセリフ。
いったいこいつは自分をどうしたいんだ、と僅かながらに苛立ちを覚えた涼は、自分が生徒を導く教師であるという以前に、ここが単純に職場であるという事実だけで、それを抑え込んだ。
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