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  体育祭後の中間テストも終わり、しばらく生徒会も一息つける六月。  鬱陶しい雨は降り続き、イベント後の脱力感がなんとなく校舎の中には蔓延していた。  気の抜けたような空気の流れる廊下を歩き、洋平は階段を軽快な足取りで降りてゆく。少し長めの、波打つ明るい髪がひょこひょこと動く。余分なラインを削ぎ取った、丁寧に造形された彫刻のような横顔に、すれ違う生徒の何人かが声を掛けたが、洋平はにこやかに軽く挨拶を返すだけで、足を止めることはなかった。 「おつかれー」  一階の生徒会室のドアを開けると、中にいた二人が顔を上げた。 「新井、今日は来ないとか言ってなかったか?」  副会長の浅尾が専用のデスクで、不思議そうな顔をする。その斜め向かいにいたのは、書記の藤田。  癖のないさらりとした黒髪の、綺麗な顔をした方が浅尾。藤田は見るからに爽やかなスポーツ少年といった雰囲気で、どちらも洋平と同じ二年である。 「会長は?」  浅尾の問いには答えずに、洋平はさっと部屋を見回して誰ともなく聞く。すると一年から付き合いのある藤田が「校長室」と端的に教えてくれた。 「校長室? なんかあった?」     
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