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会計のデスクに腰掛ける洋平に、向かい側の浅尾が軽い溜息をつく。それで洋平は会長不在の理由に何となく気付いた。
「理事長がお出ましだ」
「――ああ、ね」
やはり、と小さく頷いて、洋平は何もないデスクに両腕を置いた。
「じゃあしばらく戻ってこないなぁ」
この学園の理事長は月一程の頻度でいきなりやってくる。そして学園内の様子を校長や教師からだけでなく、生徒会長にも聞くのだという。具体的な話の内容は知らないが、毎回一時間ほどは戻ってこないのだ。
壁掛けの時計をちらりと見た浅尾はすぐに視線を手元に戻し、ファイルの書類を見ながら口を開く。
「多分、六時は過ぎるだろうな」
「マジ?」
大きく顎を上げて溜息をつく洋平に、隣のデスクの藤田が首を傾げる。
「何か聞きたいことでもあった?」
別に俺たちでもいいだろうと言外に含めた同級生に、洋平は頬杖をつき、ちらりと同じ生徒会のメンバーを見つめた。
「美術の新任のこと知ってる?」
「え、あー。俺、美術とってないわ。浅尾は?」
藤田に振られた浅尾がファイルから顔を上げ、小さく頷いた。
「赤坂先生だろう。何度か会長と一緒に話したことはある」
「へえ? どういう感じだった?」
洋平の興味津々といった様子に、浅尾の表情が途端に渋くなる。
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