1

6/6
前へ
/106ページ
次へ
 外が明るいせいで、同じ三階にある特別教室の窓から中を覗うことはできず、特に面白いものもなかった。  それでも、新井の顔はそこから動かない。  雨を眺めているわけでも、隣の校舎を見ているわけでもない。  誰もいない三階の窓辺でたたずむ新井の顔は、おそらく誰にも見せたことのない種類のもの。彫像が彫像であるための美しさを、そのまま体現したかのような新井。  その表情が微かに動いたのは、外がさっと暗くなった時だった。  陽が陰り、鬱屈とした厚い雲がさらに雨足を強める。  その左端で、何かが動く。  つられるようにそれを見た新井の目に、カーテンを引こうと窓辺に寄ったらしい白衣姿の教師が映った。  じわり、と、新井のズボンに入った長方形の紙が熱を持つ。  壁の白が雨でうっすら青みがかり、額縁のような窓枠の向こう側に立つその人物は、新井の拾った写真の中では、赤く、染まっていた――。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

366人が本棚に入れています
本棚に追加