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「おまたせ、待った?」  チェックのマフラーをした彼女が僕を覗き込む。あれ、いつの間に……。 「いや、全然」  僕が首を振ると、彼女は安心したように微笑む。 「よかった。じゃあ、行こうよ」  そう言って軽い足取りで歩き始めた。その笑顔に少し罪悪感を覚えながらもついていく。駅を出ると、一気に身体が冷えてきた。空は青く澄んでいるのに風は冷たい。隣で歩く彼女は白い息を吐いており、頬が赤くなっている。 「どうしたの?」  彼女に声をかけられ、別に、と目を背ける。周りを見るとアーケード街を歩いていた。周りには最近流行のカフェやレストランが並んでいる。男同士じゃ入りにくいところばかりだ。やっぱり女の子はこういうところが好きなんだな。曲がり角の手前にあったカフェを覗き込もうとすると、彼女は路地裏に曲がろうとしていた。ここじゃないのか。僕はカフェと彼女を交互に見て、彼女の後についていく。  路地裏には壁にパイプが這っていて、室外機が音を立てていた。前を歩く彼女とはミスマッチだった。でも、本人はスキップするような足取りで進んでいく。  しばらくして、紺色の暖簾がかかった店で彼女は止まった。最近はこういうのが流行っているのか。それにしては外観が寂れているような気がする。 「それじゃ、入ろっか」  彼女と僕は暖簾をくぐり引き戸を開ける。木のカウンターと椅子が並び、壁にはメニューが書かれている紙が貼ってあった。椅子に座ると、店員のおばさんがお茶を置いていく。調理場の奥を見ると、気難しそうな店主が何かを作っていた。僕は彼女に勧められ、彼女と同じ日替わり定食を頼む。しばらくして、お茶を一口飲み、彼女が話し始める。
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