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ラウルが出して来たのはここ数ヶ月分のギネスの裏帳簿。それによると、慣れない商売に手を出した結果かかなりの損失が出ている。それは日を増すごとに膨れ上がっていた。
思わず立ち上がりテーブルの上を食い入るように見る。その様子に、ラウルは苦笑しながらも涼しいものだ。
「写しで申し訳ないのですが」
「いや、十分に奴を揺さぶる材料になる。けれど、どうしてここまで……」
本来この能力は騎士団の、つまりは国の為に使われる。暗府がその能力を個人の為に使う事は危険として、禁止されているのだ。
だがラウルの方はまったく気にしてもいない。もの凄く澄ました様子だ。
「クラウル様も今回の件は怒っていますし、シウス様にも止められていません」
「それは……」
「それに、僕はチェルルに幸せになって貰いたいんです」
「え?」
「僕と彼は、境遇みたいなものがどこか似ています。一緒にいるようになって、沢山話をしました。似ているし、それに僕は彼に助けて貰いました。今こうしていられるのは、チェルルのおかげです。だからこそ、今度は僕が力になりたいんです」
真っ直ぐに見つめ、伝えられるラウルの言葉に胸が詰まる。そしてひっそりと、「良かった」と思うのだ。元テロリスト、国に弓を引いた彼は短い間に受け入れてもらえたようだった。
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