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「宮中でもギネス大臣の突然のテロリスト撲滅宣言は白けた目で見られています。まるで新興宗教の勧誘のようだと。ただ、元々スピーチに定評のある方らしく引きつけられる人もいるとかで。陛下も困っていると、オスカル様から聞きました」
「陛下はどのように?」
「チェルルがした事は確かに罪だが、彼にはもうテロの意志はなく、そもそもの起こりも主を助けたいという純粋な忠誠心のため。その忠誠を帝国に誓ってくれるなら、彼の希望を叶える事も視野にいれていると」
「そうか……」
どこかほっとする。思ったよりも宮中が冷静であること。そしてカールが味方についていることだ。
ラウルが穏やかに頷き、そっと手を握る。そして力づけるように見つめた。
「騎士団でもチェルルのこれまでの貢献を報告書から拾って裁判に提出できるよう、文書を起こしています。マイナス部分を補えるだけのプラスはあると、シウス様は言っていました。どうか、気を落とさないでください」
「有り難う」
ラウルは必要な報告を終えると一枚の手紙を手渡して去って行った。
手紙を開くと、そこには硬い文字で住所と時間が書き出されていた。
その夜、指定の時間に手紙の住所に向かうとほぼ廃墟みたいなものだった。
一人闇に紛れてそこへと入り玄関を開けると簡単に開く。埃の溜まった部屋の隅に、蜘蛛の巣まである。
だが、ここに指定されたのだから何かがある。そう思い奥へと向かうと、蝋燭の明かりが漏れた一室があった。
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